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「コロナ・パンデミックの実相 各地から報告する災禍との闘い」
21世紀構想研究会オンライン・シンポジウム - YouTube
パネリストからの報告 その4
木村正人(在ロンドン、国際ジャーナリスト、元産経新聞ロンドン支局長)
木村 ロンドンの木村です。今日は欧州で最大の被害を出した英国の現状についてご報告したいと思います。
インペリアル・カレッジ・ロンドンのニール・ファーガソン先生が、これから1年間で更に5万人以上が死ぬんじゃないかという予測を出しました。これだけ対策を進め、ワクチン接種も進んでいるのに、まだそれだけ被害が出るのかと恐ろしさを実感しています。
イギリスの新規感染者数は、第1波でも相当感染が広がっていましたが、第2波ではそれを上回り、第3波でアメリカを上回ってしまった。これは英国変異株の流行が一因になっていると思います。新規の死者数では100万人あたり、アメリカよりもはるかに多い被害を出してしまっています。
今日本でも懸念されている英国変異株は、去年の11月の2回目のロックダウン中に、ロンドンの東側のケント州で異様に感染者数が増えたので、大学も公衆衛生庁もNHS(国民健康保険サービス)も病院も、みんな一体化して調査しました。すると英国変異株が急激に増え、それがタイムラグを置いてロンドンにも広がっていることが、科学的にリアルタイムで実証されたわけです。この背景には、ゲノム解析のコンソーシアムの存在がありました。
それをすぐに公表した結果、フランスからドーバー海峡を封鎖され、年末年始に食料始め、物資が止まるという事態になりました。
ではイギリスはコロナ規制が甘かったのかというと、オックスフォード大学が出したデータでは、イギリスは最初のうちは一番厳しい規制にはいっています。グラフの紫の線です。
その後もそれを維持して、1月の3回目のロックダウンで、そうとう高い規制になっています。対策のタイムラインでいうと、昨年1月31日に中国の旅行者が、初めての感染者として見つかり、3月5日に初めての死者が出ました。
昨年3月23日に、すでに1回目のロックダウンに入ったわけです。夏は緩んで、9月から政府が地域ごとに段階的な規制をして、このとき科学者は、もっと強い規制を取らないと大変なことになると言ったのですが、緩い規制になってしまった。
それで11月にイングランドだけ、2回目の封鎖に入る。その後1カ月で解除して、ワクチンで乗り切ろうとしたところで、英国変異株が相当な広がりを見せて、今年1月5日に三度のロックダウンに追い込まれました。
ここで学校の休校措置を取っていますが、休校にすると児童の教育が遅れ、親御さんも働きに行けなくなってしまうので、イギリスでは最終手段でした。しかし英国変異株が子供にも感染していることを科学的なデータで証明したので、即座に学校を閉鎖しました。
去年の3月のロックダウンでは、ロンドンで一番の繁華街のピカデリーサーカスにも人は誰もいなくなった。電車の中は、エッセンシャルワーカーだけです。
これは自宅近くの遺体安置所ですが、備えるために、臨時の仮設テントを作ったわけです。
このとき、ひょっとしたら自分も死ぬんじゃないか、また感染したら後遺症でジャーナリストの仕事も続けられないんじゃないかと、3月の時点でもう覚悟しました。それで、秋に日本に帰って、冬は日本で過ごそうかとも思ったんですが、やっぱりジャーナリストなので、最前線で見とかなあかんということで、ロンドンにとどまりました。
イギリスも貧困問題が広がっていて、学校で無償の給食を提供してもらっている子どもたちが沢山います。それで教頭先生が無償の給食をリュックに背負って、歩いて子どもたちに毎日食事を届けていました。
5校に1校の学校が、休校中に地域の人たちにも食料を無料で配るフードバンクを開設しました。
イギリスの失敗の本質は何だったのか。まず一番には、EUからの離脱という政治的な大きなテーマがあったので、コロナ対策を最優先にすることができなかったことです。科学の立場から言えば、インフルエンザウイルスを念頭に、完璧なパンデミック対策を作ったという過信があったんですが、潜伏期間が長いコロナにはまったく通用しませんでした。
各論で見ていくと、色々な失敗があります。病院のコロナ病床をつくるために、陽性検査もせずに、無症状の高齢のコロナ感染者を介護施設に送り返してしまったことで感染が広がり、超過死亡の半数以上を介護施設の入所者が占めるという事態になりました。
2番目は、都市封鎖が遅れた。昨年3月23日に一回目の都市封鎖をしましたが、その1週間前にしたら、死者を36,700人から15,700人くらいまで減らせたかもしれないと言われています。当時研究者は、都市封鎖しなかったら25万人以上が死亡すると報告書で指摘していましたが、その時は科学者の過半数も、そこまでする必要はないと思い、対応が遅れてしまった面があると思います。
3番目として、旧植民地からの移民が多いので、国境を封鎖できなかった。イギリスは、昨年の3月から3カ月間、国境措置を何もしなかったため、イタリアやスペインからかなり新規感染が入ってきた。それに対して、強制的な自主隔離やスクリーニングの強化などをしなかったのは重大な誤りだと指摘されています。
医療アクセスにも限界がありました。イギリスは、100パーセント公的医療なので、原則無償で国民全員、移民の人も含めて医療が受けられるナショナルヘルスサービス(NHS)があります。そうすると、毎年冬には医療が逼迫するとか、待ち時間が長いという問題があります。
それで、現在はワクチンをどんどん接種しています。これはサッカー場のワクチンセンターです。
GP、かかりつけ医の先生が仕切っているわけです。イギリスは集中治療室の治療レベルも日本に比べたら格段に低いと言われますが、先生たちは最前線に立って、ワクチンセンターも自分で考えて作ったわけです。この人たちの、地域の住民を自分たちが守るという話を聞くと、やっぱり頼もしいというのがイギリス国民の正直な気持ちだと思います。
僕が取材したところ、70代や80代の人は、ワクチンの副反応はほとんど出ていません。しかし40代、50代の前半の人は、若い人ほど重い副反応が出ているというのは、僕が20人くらいから直接取材した結果でした。
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パネリストからの報告 その3
中嶋優子(在アトランタ医師、Assistant Professor of Emergency Medicine, Emory University School of Medicine、Metro Atlanta Ambulance Service Medical Director、米国救急専門医、米国 EMS 専門医)
中嶋 アトランタのエモリー大学の中嶋優子です。
アメリカは世界で一番コロナの患者数も死亡者数も多い国となっていて、人口は日本の約2.6倍しかないのに、60倍くらいの差があります。そんなアメリカでも、アトランタのあるジョージア州では、2月後半くらいから1日あたりの死亡者数が減ってきています。
エモリーヘルスケアという病院のグループですが、これは毎日送られてくるデータです。去年3月、7月、そして今年1月にピークがありまして、新型コロナ患者合計で1万1000人くらいの入院者数、死亡者数は864人。死亡率としては、入院患者では大体8%くらいとなっています。
去年の3月は私たちの病院グループで、合計179名の新型コロナの患者がいて、ICUに入るような重症者は100名弱いました。
4月に少し増え、7月にも増え、12月に少し減りました。そして今年の1月にはまた、ものすごく増えました。合計451名で、ICU(集中治療室)もいっぱいになり、ER(救急外来)は疲弊状態で、こちらの病院群でもジョージア州でも、ほぼ医療崩壊の状況でした。ICU待ちの患者が1日〜2日救急にとどまってベッドが空くのを待っているという事態が起きていました。3月11日現在で、だいぶ患者は減り86人。ICU入院の患者も減りました。
これは私の働いている二つの病院の一つですが、3月にこういった仮設テントを設立して、患者受け入れの準備をしていました。
こちらはコンベンションセンターみたいなところで、州が急遽回復用のベッドとして設立したものです。
エモリー大学病院では2014年にエボラ患者の受け入れ経験があったため、2019年12月に武漢コロナのニュースが出たときに、病院のリーダーの方たちがいち早く準備をしました。近くのジョージア工科大学も協力して、仮設テント、PPE(防御衣)、フェイスシールド等を整えました。こうした率先した取組みがとても高く評価されて、メディアの取材も受けました。
私たちの救急部で一番変わったのが、ERを大きくゾーンに分けたということです。
これはあるときの救急部の状況ですが、青と黄色のベッドがあるのが、コロナっぽくない患者のゾーン。トリアージ(治療優先順位)で振り分けるのですが。赤のほうはコロナの可能性があるゾーンで、待合室も完全に動線を分けています。
コロナは多様な臨床像があり、軽症から重症もあります。様々なファクターはありますが大体動作時で酸素飽和度が90%以下、安静時で94%以下になった患者が入院適応となっています。入院後には、レムデシビル、デキサメタゾンの投与、抗血栓抗凝固療法などを行っています。
救急にいますと、エアロソル(細かい飛沫)が発生する処置を多くしますので、救急のスタッフは感染のリスクが高いとされています。そういったものにウイルスを除去するフィルターをつけたり、ジョージア工科大学からいろいろな形の挿管ボックスを作って送ってもらったりして、暴露の軽減をするようにしています。
PPE(防御衣)ですが、着脱のトレーニングにとても力を入れました。コロナ患者をたくさん見てきましたが、百数十人スタッフのうち感染者は2、3人程度と聞いています。これだけコロナの診療をしてきてその程度なのでPPEは本当に効果的だということを実感しています。しかしPPEは足りない時期がだいぶ続きました。N95マスクはコロナ前は1回ごとに使って捨てていたのですが、何回も同じものを再利用していました。
公衆衛生局が消毒再利用の施設を設置して、医療機関は無料で消毒滅菌できるようなこともしています。大体1、2週間くらい使ったN95を出して、消毒滅菌して使ったりしています。ガウンも再利用する期間がありました。
私たち医療従事者は、アメリカではヒーロー扱いのことが多いのですが、現実には、予定外来、予定手術が数カ月間減ってしまい、病院全体の収益が落ちてみんなの給料が10%カットになったりしました。長期化しているので、医療者の疲弊もだんだん広がってきてはいますが、最近は改善の方向に向かっています。
アメリカは、医療保険制度があまり普及していないので、外来にかかれないような患者がひどくなって、ERに来たりします。ERは保険関係なしに患者を全員診ていますので、どうしてもどんどん増えて、最近は特に救急がいつも満床です。
悪循環の一つとして、救急隊が患者を引き渡しできずに、ERの壁伝いにずっと待っている壁時間というものがあり、最近特に増えて問題となっています。州の方でデータ収集の強化を9月から義務付けたり、病院の混雑状況がリアルタイムでわかるようなダッシュボードを作ったり、救急隊の人もスマホで状況を見られるようにもしています。
指令センターでも、軽症の患者を選別したり、的確な搬送先の指示をしたり、病院での壁時間を減らすために工夫しています。
最後に、アメリカの社会の状況について話をします。希望の光のワクチンは、エモリーでは職員と患者に12月中旬から接種を進めていて、3月11日時点で合計7万8000人に接種しました。ワクチン接種が終わると、みんなうれしくて、サンキューという写真を撮ってSNSで公開しています。
大統領、副大統領もメディアで、ワクチン報道をしていました。安全ですよというアピールにもなっています。
意外なのは医療従事者で、ちょっとヘジテーション(忌避)があったりして、医師は大体95%くらい接種しているということですが、看護師は50から60%、救急隊員や消防士は40から45%ということで、なんとか増やせないかという動きになっています。
3月12日にバイデン大統領の演説がありました。5月1日までには国民の全員にワクチンが行き渡るようにしようと。7月4日の独立記念日には、昔のように集まってお祝いできるようにしようという、前向きな演説をしました。私も少し希望を持っているような状態です。
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パネリストからの報告 その2
船戸真史(在ボストン医師、日本プライマリ・ケア学会認定家庭医療専門医公衆衛生学修士)
船戸 ボストンから報告します。まず、COVID-19のボストンの状況についてお伝えします。
ボストンはアメリカの北東部にあるマサチューセッツ州の中心的な都市です。
数多い有名大学があり、科学者や学生も多く住み、世界的な製薬企業が集中して拠点を構えています。また、新技術を生み出すスタートアップ企業など、大小様々な企業が450社を超えて集積しています。今回モデルナ社も創業10年で、ボストンから画期的なワクチンを生み出しました。
これはボストンの流行状況で、アメリカでは大きく二つの波を経験しています。
外出時のマスク着用はこの州では必須となり、違反した者には300ドルの罰金が科せられます。第1波が始まる前後でも、100パーセントに近いマスクの着用率で、エビデンスに耳を傾けて対策をしていました。
レストランでは、日本の居酒屋の密とは違い、6フィート(約1.8m)座席の距離を置いて、オーダーもインターネットを使って行います。消毒も常にしていて、みな徹底した対策を取っています。
そこまでやっても、患者数、死亡者数ともにマサチューセッツの方が多いです。累計陽性者数に関しては約5倍、累計死亡者数に関しては約10倍で、感染のコントロールがうまくいっていないと思います。
アメリカで特に感染者数が多い要因の一つとして、アメリカの社会格差があると思われます。ボストン・グローブの記事では、アフリカ系やラテン系の感染者数が有意に増えているという不平等さを指摘しています。
ワクチン接種が始まっても、ラテン系への接種が遅れているという指摘もあります。ラテン系の方々は多世帯で住む傾向があり、エッセンシャルワーカーにもアフリカ系、ラテン系が多いので、こういった社会構造がコロナを長引かせている原因とも考えられます。
ワクチンヘジタンシーの話に移ります。ヘジタンシーとは、忌避する、ためらうという単語で、定義では、ワクチンサービスが利用可能であるにもかかわらず、受容が遅れたり、拒否したりすること、とされます。2019年にWHOは、このワクチンヘジタンシーを、世界的な健康10大脅威のうちの一つであると警鐘を鳴らしています。世界的に見られる現象ですが、原因や成り立ちは、地域によって非常に様々な要因があります。
日本の状況ですが、世界149カ国の調査において、最もワクチンへの信頼が低い国の一つだと指摘されています。
このスライドは、ワクチンは安全か?重要か?効果があるか?というアンケート調査の結果です。日本だけ他の国と違って、全ての地図において赤色を示しています。つまり、安全である、重要であるというような気持ちが非常に低い国民性だというふうに、示されています。
日本人のワクチンのへの信頼度の低さについて、歴史をふりかえってみます。
左上の牛の写真は、江戸時代幕末の、牛痘の予防接種のプロモーションのチラシです。
人類史上初のワクチンが、西洋で牛から作られたのですが、漢方の医者たちはこういった技術は妖術であると吹聴したり、人々も、ワクチンを打ったら牛に変わるのではないかというような噂が広がったりしたため、キャンペーンとしてチラシを作ったものです。
右上は、戦後間もなく始まったジフテリアのワクチンの副反応によって、最終的に80人ほどの子ども犠牲になったという痛ましい事件の写真です。当時、ワクチンの精度管理が不十分なせいでこのような犠牲が出てしまいました。元々義務接種であった日本の予防接種は、こういった事件やその後の反発を機に、任意の接種に変わっていく一つのきっかけとなっています。
日本人は昔からワクチン嫌いだったかというと、そうではありません。例えばポリオが流行していた1950−60年代には、海外で先に非常に効果が高いワクチンが開発されて、それを早く輸入してほしいと、特にお母さん方の運動が政府を動かして、ワクチンを輸入したという実績もあります。
そして、最近の子宮頸がんワクチンに対する問題ですね。2013年に定期接種となった子宮頸がんのワクチンは、その後接種を受けた女子が多様な症状を示したことで、国民の不安が一気に広がり、70パーセント以上あった接種率が1パーセントを切る事態になっています。
今回のコロナワクチン騒動について、歴史上の相違点が2つあります。1点目はソーシャルメディアが、ミスインフォメーションの増幅装置として作用しているところ。
もう一つは、医療従事者たちが立ち上がって声を上げているということです。有志の医療者がLINEなどを使って正しい情報をわかりやすい形で一般の人に伝えようという動きがあります。これは過去のHPVのワクチンでセンセーショナルな報道があったときに、医療従事者たちが自分ごととして立ち上がれなかったことの反省にも一部基づいていると思われます。
最後に、結論として1点目、政府の一貫した情報発信と透明なリスクコミュニケーションが重要だと思います。
2点目は、医療従事者の継続的な知識のアップデートが必要だということです。今回も、コロナワクチンはmRNAという新しい技術を用いたワクチンですので、医療従事者も不安な患者さんに的確に説明できる知識技量が求められます。
最後にワクチン推進派と反対派の分断ではなく、包摂を目指すということが重要だと思います。お互いがコミュニケーションを取って理解していくことが、科学のコミュニティに対する信頼の醸成につながると考えます。
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パネリストからの報告 その1
黒木登志夫(東大名誉教授、日本学術振興会顧問)
馬場 錬成(司会) ただ今より、東京、ボストン、アトランタ、ロンドンをつないだオンラインシンポジウム、『コロナ・パンデミックの実相』を開始いたします。4人のパネリストから順次、冒頭報告をお願いします。トップバッターは、モデレーターでもある黒木登志夫さんです。宜しくお願いいたします。
黒木 黒木登志夫です。1936年生まれで85歳になります。簡単に自己紹介します。
本日は、日本の感染の状況を、特に変異株とワクチンの問題に焦点を当ててお話ししたいと思っております。
COVID-19のコロナウイルスは、雲南省の洞窟のキクガシラコウモリから発見されました。コウモリから中間宿主のセンザンコウという動物を経てヒトに入り、ヒトの感染症としての最初の報告は、昨年2月のランセットのものでした。
それによれば、2019年の12月1日に最初にヒトの患者が出て、それから1年3、4か月経った今はパンデミックとなり、なんと1億2000万人の感染者がいて、死亡者は264万人に上っております。
この経路について、ウイルスのゲノム分析からいくつかわかったことがあります。
ネイチャーの論文によれば、コロナウイルスのゲノムのレセプターに結合する配列が、センザンコウとヒトに感染したものは、非常によく似ていていること、また、RRARという特徴的な配列を両者が持っていること、このRRARが、病原性や感染性に非常に大きく影響しているとことがわかってきました。
ゲノム解析により、武漢型ウイルスが日本に入り、ダイヤモンド・プリンセス号から日本の数カ所に行き、その後ヨーロッパに行って、また日本に入ってきたという、感染の経路がわかりました。
現在はヨーロッパ型、南アフリカ型、ブラジル型、イギリス型など、色々あります。
コロナウイルスは、RNAウイルスとしてはあまり早く変異するほうではなく、ひと月に2回くらい変異しております。
イギリスの変異ウイルスのB.1.1.7は、3月9日現在、WHOの報告書では111か国に入っております。これはものすごく感染性が強いウイルスで、たった45日でロンドン中に蔓延し、ほとんどがこのB.1.1.7という変異ウイルスになってしまいました。このウイルスは今までのものより70パーセントくらい感染率が高く、そのために急速に広まりました。
こういう変異ウイルスを見つけるには、通常のPCRをやった後に、特に変異株に特徴的なところにデザインされたPCRをして、さらにゲノム解析をしなければなりません。しかし、ゲノム解析はけっこう大変で、国立感染症研究所だけではとてもできません。
日本はPCR検査が非常に遅れていて、2月28日までに行われた人口100人あたりの累積PCR数は、日本は6.1%で、イギリスの2000分の1くらいしか行われておりません。PCRをこのように根強く厚労省が制限していたわけですが、この変異ウイルスのときになって、それが問題になってきました。
コロナに対処するには、特効薬とワクチンが必要です。
COVID-19の特効薬としては、デキサメタゾンとレムデシビルがあります。ワクチンもmRNAワクチンとアデノウイルスワクチンが今市場に出ております。
mRNAを使った核酸ワクチンは今回初めて成功して、ファイザーとモデルナが作りました。アデノウイルスベクターを使ったものは、アストラゼネカとジョンソンアンドジョンソン、それからロシアのスプートニクがワクチンを作っています。そして、中国が開発したのは不活化ワクチンで、それぞれに特徴があります。
mRNAとアデノウイルスベクターのワクチンでは、90パーセントくらいの効率があるということがわかっております。
これはファイザーとモデルナが実際にその有効性を見たときのデータですが、圧倒的にワクチンを打った人には感染者が出てこないということがわかります。
ワクチンを打った人と打っていない人の違いを、イスラエルのデータから見たのがこのスライドです。
ワクチン接種者は青線、非接種者は赤線で示しています。60万人を対象にした非常に大規模な実験で、PCRの陽性者を見ると46%位が有効であり、有症状者は57%、入院患者が74%、重症者は62%、死亡者は72%有効ということがわかります。つまり、ワクチンを打ってできる抗体は、感染を防ぎつつ、同時に病気の進行を抑えるということがわかります。
ワクチン接種率については、3月13日現在のデータでは、イスラエルが106%、(2回受けた人が6%)、イギリスが37%、アメリカはまだ32%しか接種されていない。EUは大体10%から12%、日本は始まったばかりで、0.02%です。
また日本の特徴は、死亡者が非常に少ないということです。人口100万人あたりの死亡者をグラフにすると、ヨーロッパ諸国は急カーブで上がってきますが、日本、韓国、中国のようなアジアの国々は死亡が非常に少ないです。日本の致死率は、大体アメリカの50分の1です。山中伸弥先生はこれをファクターXと呼んでおります。
ファクターXの一つの可能性としては、ネアンデルタール人由来の遺伝子がこの感染に関係しているということです。
3番の染色体の持っている六つの遺伝子が、重症化に関係する可能性があり、この遺伝子は南アジアやアフリカに多く、東アジア、中国、韓国、日本、アフリカにはまったくありません。アメリカにはヨーロッパがルーツの人もかなりいますので、重症化遺伝子を持っている人が相当数いることになります。
また最近になって、12番の遺伝子にも軽症化に関する遺伝子があるということがわかりました。この遺伝子は重症化のリスクを22パーセント下げると言われ、日本人の30パーセントが保有しております。
今非常に心配なことは、イギリスの変異の株がどのくらい入っているかです。神戸市でPCR陽性者の60パーセントについて、N501Yの変異の検査を行いました。N501Y、つまり、イギリス型あるいはブラジル型の変異株がどのように増えていくかというのを見たものです。
1月の末から3月の初めまでにかけて、指数関数的に増えています。倍加時間は9.7日、つまりイギリス型の変異ウイルスは10日で2倍になります。日本は今非常に危険的な状態になっているということがわかり、第4波が本当に大変なところに向かっていると思います。
その1を終了。次回はボストンから船戸真史さんが報告します。
新型コロナウイルスと人類の闘いが世界中で展開されています。英国型変異種をはじめ変異ウイルスは感染力が強く、パンデミックの新たな広がりが危惧されています。国家・地域・社会にどのような影響を及ぼしているのか。各地の人々は、コロナ・パンデミック災禍とどのように闘っているのか。さる3月15日、東京・ボストン・アトランタ・ロンドンをオンラインで結び、各地からの現状報告と対応策を語り合うシンポジウムを開催しましたので報告します。
シンポジウム 「コロナ・パンデミックの実相 各地から報告する災禍との闘い」
開催日2021年3月15日(月) 日本時間午後2時~同4時
パネリスト(敬称略・順不同)
黒木登志夫(東京大学名誉教授、日本学術振興会顧問)
木村正人(在ロンドン国際ジャーナリスト、元産経新聞ロンドン支局長)
中嶋優子(在アトランタ医師、米国救急専門医、米国EMS専門医、国境なき医師団日本副会長)
船戸真史(在ボストン医師、日本プライマリ・ケア学会認定家庭医療専門医、公衆衛生学修士)
コメンテイター 黒川 清(政策研究大学院大学名誉教授)
1960 年東北大学医学部卒。東北大抗酸菌病研究所助教授、1996 年まで東京大 学医科学研究所癌細胞研究部教授。WHO国際がん研究機関研究員、昭和大学 腫瘍分子生物学研究所所長、岐阜大学学長、日本学術振興会学術システム研究 センター副所長などを歴任。第 4 回高松宮妃癌研究基金金学術賞、日本癌学 会、吉田富三賞受賞。 主な著書に『がん細胞の誕生』朝日選書、『がん遺伝子の発見』中公新書、『科学者のための英 文手紙の書き方』朝倉書店、『分子生物学のための、新培養細胞実験法』羊土社、『健康・老 化・寿命』中公新書、『落下傘学長奮闘記 大学法人化の現場から』中公新書ラクレ、『知的文 章とプレゼンテーション 日本語の場合、英語の場合』中公新書、『iPS 細胞 不可能を可能にし た細胞』中公新書 、『研究不正 科学者の捏造、改竄、盗用』中公新書 、『新型コロナの科学パンデミック、そして共生の未来へ』 中公新書など。 | 在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長) 1961 年大阪府大阪市西成区生まれ、1984 年京都大学法学部卒業、同年 4 月産経新 聞社に入社。大阪本社社会部、神戸支局で事件記者として勤務。 大阪府警キャップ 後、東京本社へ。社長秘書。 2002 年(平成 14 年)米国コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。2003 年政治部次長 (憲法担 当)。 外信部デスクを経て 2007 年 7 月英国ロンドン支局長。2012 年、産経新聞を退職しフリーラン スジャーナリストになる。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、 欧州経済に詳しい。主な著書に『EU 崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれ も新潮新書)、「欧州 絶望の現場を歩く―広がる Brexit の衝撃」(ウエッジ)など |
Assistant Professor of Emergency Medicine, Emory University School of Medicine、Metro Atlanta Ambulance Service Medical Director、米国救急専門医、米国 EMS 専門医。 2001 年札幌医大卒業、在沖縄海軍病院を経てから浦添総合病院、都立墨東病院などで麻 酔科、救急総合診療に従事。2009 年 USMLE 取得、2010-2014 Yale Emergency Medicine Residency,2014-2017 UC San Diego で EMS/ Disaster Medicine Fellow Research fellowship 修了、2017 より現職。Emory では Prehospital and Disaster Medicine Section から Metro Atlanta Ambulance Service の Medical Director を兼任。Global Health Section にも属している。また国境なき医師団で 2010 年より6回の海外派遣に参 加、2017 年より理事、2019 年より国境なき医師団日本副会長。 |
日本プライマリ・ケア学会認定家庭医療専門医。公衆衛生学修士(グロ ーバルヘルス専攻)。 2012 年長崎大学医学部を卒後、沖縄県立中部病 院、宮古病院で研修。 2016 年より沖縄県最北端の離島である伊平屋島 (いへやじま)の診療所へ赴任。島内唯一の医師、(通称:島医者)として 診察、公衆衛生業務に従事。 2018 年より国立国際医療研究センター国 際医療協力局テクニカルオフィサー 際医療協力局テクニカとして東南アジアの医薬品の国際展開支援と保健 医療人材育成に従事。 2021 年 3 月ハーバード大学公衆衛生大学院修士課程修了、現在 は、日本の子宮頸がんのワクチン忌避問題や予防接種の歴史の調査を行っている。 |
東大医学部卒、医学博士。内科医としてペンシルヴァニア大学にはじまる1969-84 年在米、UCLA医学部内科教授などの後、東大医学部内科教授、東海大医学部長などを歴任。日本学術会議会長(2003-06年)、内閣府総合科学技術会議議員(2003-06年)、 内閣特別顧問(2006-08年)、WHO コミッショナー(2005-08 年)、沖縄科学技術大学院大学学園理事(2011-20年)。現在は、政策研究大学院大学、東京大学名誉教授、東海大学特別栄誉教授、広島大学顧問、日本医療政策機構代表理事、世界認知症審議会( World Dementia Council)メンバー、野口英世アフリカ賞委員長、2020年7月には新型コロナウイルス対策の効果を検証するAIアドバイザリー・ボードの委員長に就任。2011 年 12 月 国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会委員長(-2012 年 7 月)。グローバルヘルス技術振興基金代表理事・会長(2013-18 年)。日本内科学会理事長、日本腎臓学会理事長、国際科学者連合体の役員・委員を務め、国際腎臓学会理事長、国際内科学会議会長などを歴任。 |
パネリストの冒頭発言とパネルディスカッションの詳報は、
3月25日から数回に分けて公開します。ご期待ください。
(認定NPO法人・21世紀構想研究会事務局)
開催日 2020年10月17日(土)午後4時―同6時 ZOOM開催
演 題 「46歳記者がデジタルジャーナリズムの世界で見たもの 新聞の未来はどこにあるのか」
講 師 坂井隆之(毎日新聞統合デジタル取材センター副部長)
坂井 本日は、現在の新聞社、新聞記者が直面している状況をお話しさせていただき、皆さんからもぜひご意見やご質問をいただければと思っております。
新聞記者としての経歴
私はほぼ20年間にわたって、毎日新聞記者として新聞報道に携わってきました。いわゆる夜討ち朝駆けを含めた取材合戦に明け暮れ、いかに他社に先駆けて特ダネを取るか、あるいは企画記事を紙面に大きく載せるかに多くの時間を費やし、とにかく紙面で読者に届けるということを、日々しのぎを削ってやってきました。
所属は経済部がほとんどです。1998年に入社した頃から経済部を志望し、2003年に経済部に参りまして、日銀とか金融庁、財務省といった定番の取材先をぐるぐると回りまして、2012年から4年間ロンドンで特派員をしておりました。
ロンドンの特派員時代には、イギリスのEU離脱を問う国民投票の取材をした経験もあります。2016年の秋に経済部に戻ってきて、その後経済部副部長、いわゆるデスクをやって、そして2020年4月に、統合デジタル取材センターという現在の持ち場に異動し副部長、デスクとして仕事をしております。
激減する新聞部数
まず、新聞業界が今どういう状況にあるかを数字で示したいと思います。皆さん、よくご存じだと思うのですが、新聞読者というのは劇的に減っております。
新聞協会の数字では、2000年には全国で5371万部発行されていました。単純に言えば、人口でいうと半分、平均2人に1人くらいは新聞を読んでいたということになります。
それが、わずか19年間のうちに、3781万部まで30%も減った。読売新聞と朝日新聞を足したくらいの数字が消失したということです。
それでもまだ3700万部あるのかという見方もあるかもしれませんが、20年前までは1世帯あたり1.13部を取っていたので、1世帯で2紙取っている家も昔はけっこうあったんです。私の子どもの頃も我が家で2紙取っていました。地方紙と全国紙を取るとか、全国紙とスポーツ新聞を取るという家庭もありました。
2019年においては、1世帯あたり0.66部。1を大幅に割り込んでいる状態です。このように、新聞を取らない世帯というのが明らかに増えているということです。
新聞は、テレビやインターネットに圧倒的に負けている
平日にメディアを利用する平均時間を年齢別データで見ると、新聞はラジオよりも低いという数字が出ています。総務省が2018年の調査結果の発表ですが、10代の人は新聞をほとんど見ていない。20代、30代と年齢が上がるごとに上がっていって、60代でそれなりに見えてくるという状態です。
高齢の方はインターネットが苦手じゃないかと思っていましたが、これを見ますと、実は新聞よりも圧倒的に見ているという状況があります。
いまだにテレビが強いなという印象ですが、なんとなくつけっぱなしにしている時間も含めてでしょうから、一概にイコール影響力というわけではないのかもしれません。
もうちょっとブレイクダウンして言いますと、これも総務省のデータなのですが、「新聞を1日10分以上読んでいる人」という調査でいうと、20代というのはわずか5パーセントです。働き盛りの30代でも13パーセント。40代ですら23パーセント。つまり40代でも、4人に1人くらいしか1日10分以上新聞を読んでいないということです。10分以上読んでいる人で5割を超えるのが、やっと60歳以上。52パーセントということです。
つまり、20代の学生とか、若手の会社員、社会人という人は、1日10分以上新聞を読んでいる人が5パーセントしかいないということです。95パーセントは新聞を5分未満しか読んでいない、あるいはまったく読んでいないということになります。
新聞を読む人間はどんどん減っていく
当然ながら、これは我々新聞業界としては恐ろしい話です。たとえばNIE(Newspaper in Education)といわれる「教育に新聞を」という事業をボランティアでやったりして、教育現場に記者が出向いて新聞を読む授業をやったりもしているのですが、そんなことでは全然追いつかない。そもそもお父さん、お母さんの世代がもう新聞を読んでいないという状況なので、年々減っていくことになります。
じゃあ年を取ったら新聞を読むのかというと、実はそうでもありません。若いころ新聞を読んでいない人が、年を取ってから新聞を読みはじめるということは基本的にありません。
今60歳以上の方、もっというと70代以上の方が新聞の読者の主力です。この方々は、いわゆる全共闘世代と言われる人も含め、戦後の民主主義の、新聞がメディアの王様だった時代に、新聞を非常に熱心に読んでいた方々です。ずっと読み続けてきたコアな世代として、それがそのまま年を追って、持ち上がってきたということなのです。
今この世代方々が、ものすごい勢いで新聞をやめています。介護施設に入られたり、亡くなられたり、あるいはお一人暮らしになられたりして、新聞が毎日来ると邪魔であるという理由で止めてしまうので、新聞購読の停止が相次いでいるのです。
先ほどの部数の減少というのは、これから先ますます加速していくというのが、一般的な見方です。この数字でいうと15年後どうなるのか。理論的にいうと、20
年後にはゼロになるという勢いで減っているということであります。
紙の新聞と広告料による売上高も大きく減少
新聞業界全体の売上高を新聞協会の集計でみると、2006年度は2兆3000億円でした。周辺のいろいろなことも含めればもっとあるかもしれませんが、2兆円くらいの規模の総売上高だったのが、2009年度で1兆5000くらいになり、35%、1兆円近く減っています。
内訳を示していないのですが、大体7~8割くらいが新聞の販売および広告で、これが新聞社の収益の柱です。残りの2割くらいがいわゆるイベントなどの事業とか、不動産とか、そういった他諸々で2割くらい稼いでいるというイメージです。
この8割の販売と広告というところが今どんどん減っていまして、たぶんこの比率でいっても85パーセントとか90パーセントくらいあったのが、おそらく今75パーセントくらいまで減っているのではないかと思います。つまり、いわゆる紙の新聞と、それに付随しての広告収入というものがどんどん減っているということであります。
新聞は骨董品に?
じゃあこのままいくと紙の新聞は骨董品のような世界になってしまうのではないか。言ってみればレコードがなくなってCDになり、ついにはデータ配信になったとか、カメラもフィルムがなくなってデジタルカメラになったというように、新聞も紙のものが一部の好事家といいますか、紙で読むのがどうしても好きだという方だけが楽しむためのものになる可能性があるということです。
そもそも新聞社として果たすべき使命、つまり多くの人に情報を届けるという使命を果たすうえでは、紙の新聞だけを発行していたのではもはや成り立たないというのは、これは共通認識となっています。
紙からインターネットへ、デジタルシフトの必要性
じゃあどうするのか。まさにデジタルにシフトしていくしかないということです。さきほどの表でいうと、インターネットに媒体として乗り換えていかなきゃいけないということです。新聞というのは明治維新後に生まれたメディアです。よく言われるのですが、当時、もしインターネットがあったら、インターネットでやっていただろうという言い方があります。
つまり、当時としては、紙で宅配網を使ってみんなに配るというのが一番効率的なシステムだった。紙で配るという形は、かつてはそれが一番効率的であったから普及したのであって、現在インターネットがこれだけ皆さんの生活の中に定着して主流となっている時、インターネット経由で情報を届けることに本気で取り組まないというのは、それはもうレコードだけを出し続ける会社みたいなものであろうということになります。マスメディアとして引き続き世の中に必要とされるのであれば、このインターネットに行かざるを得ないということです。
海外は一歩先にデジタルにシフト
これは世界中で同じ傾向があり、海外ではもっと激しい勢いで紙が減っています。日本では自宅に新聞を届ける宅配システムが定着しているので、勢いよく部数は減りません。家に届けるという、いわばサービスとセットで新聞を売っているので、毎日届けてくれるから読む。その習慣化されたサービスとして売っているので、そんなに減らないのです。
コロナショックの中でも、意外と新聞は部数としてはそんなに減っていません。ところが、新聞先進国であるアメリカとかイギリスの紙の新聞は、日本以上に劇的に減っています。というのは宅配ではなく、基本的にはニューススタンドといわれるような、売店のようなところで売っていることが多いからです。減るだけ減った状態になっています。そのために、日本よりもはるかに早くデジタルへのシフトを進めています。
ニューヨーク・タイムズはいち早くデジタル化に成功、読者が650万人に
世界的にデジタルシフトが成功しているといわれているのが、ニューヨーク・タイムズです。ニューヨーク・タイムズはデジタル化で契約数を伸ばしていますが、紙の方は右肩下がりです。
デジタル版というのがぐんと伸びております。デジタル有料コンテンツというのは、基本的には有料会員購読料です。例えば月980円とかお金をいただいて、あるいは年間で1万何千円とかいただいて、それでウェブサイトの記事は読み放題ですよというようなサービスです。
これがいわゆるデジタルの有料会員モデルです。それに、ウェブサイト上にも広告というのがありますので、ウェブサイト上に載っている広告の収入と、お金を払って読んでくれる読者からいただける会員料の両方が収益源です。
ニューヨーク・タイムズの読者数は2011年には150万人だったのが、今、デジタル読者がどんどん増えた結果、全世界に650万人の読者がいるということです。ちなみに毎日新聞は、私が入社した1998年は400万部と言っていたのですが、今は300万を切っています。そう考えると、デジタルの読者を含めるとニューヨーク・タイムズに逆転されたということになるわけです。
これを売上高ベースで見ますと、有料会員の購読料、これはサブスクリプション、定額のお金を会員料としていただいて記事が読み放題というサービスのことですが、このサブスクリプションの売上、デジタルで記事を読んでもらって会員料をもらうというサービスが、2019年はNYTの60パーセントを占めています。
一方、広告は減っています。特にリーマン・ショックをきっかけに減ったのが戻らなくて、今では29パーセント、3割しかないということで、ニューヨーク・タイムズの収益構図というのは、今や広告よりもデジタルでのサブスクリプションの売上のほうが多いということになります。このニューヨーク・タイムズのように、減っていく広告収入、紙の収入、あるいは紙の読者をデジタルで補うというのが、我々の目指す理想形です。
日本の新聞のデジタル化は簡単じゃない?
しかし、決して容易なことではありません。この表はだいぶ古い2016年の数字ですが、ニューヨーク・タイムズの有料会員が150万人くらい。日本では一番デジタル化が成功しているといわれている日経新聞が、フィナンシャル・タイムズを傘下に収めていますので、合わせて100万人超ぐらいです。
ウォール・ストリート・ジャーナルも100万人弱という数字ですが、俗に100万人くらい会員がいると事業として独立して成り立つんじゃないかという説もあるくらいです。つまり有料会員の数を相当取らないと大変です、というわけです。
大手紙では一番デジタルの会員数が多いのが日経新聞、朝日新聞がその次だと業界ではいわれていまして、毎日新聞がその次くらい。我々もかなり頑張ってはいるのですが、日経新聞の背中も見えていないし、国際的に見ればニューヨーク・タイムズとかウォール・ストリート・ジャーナルレベルには当然達していません。しっかりデジタルで売上が立って、広告とか新聞が減っていくのを補うほどの会員が現時点で獲得できているかというと、まったくそんな域には達していません。
毎日新聞「総合デジタル取材センター」という部署
今私が勤めているのは、統合デジタル取材センターという部署です(※2021年4月に「デジタル報道センターに改称」。新聞業界というのは変わっていかざるを得ない。毎日新聞のウェブサイトに皆さんに来てもらって読んでもらう。できれば有料会員になってもらうということを進めるために、戦略的に取材して記事をつくっていく部署が、統合デジタル取材センターです。
これはビジネスをやる部署ではなくて、報道をしていく部署です。ウェブサイトで読まれる記事で、しかも、できればお金を払ってでも読みたいと思えるような記事を書く部署です。それに特化した戦略的な部署です。
経済部とか、政治部とか、社会部というのは、もちろん今までどおり仕事をしているのですが、その人たちの意識とか行動様式を切り替えるというのはなかなか難しいので、あえて新しい部署を作って、そこに特化して戦略的にやっていこうという部署です。毎日どうやったらウェブ上でみんなに記事を読んでもらえるかということを必死で考えて仕事をしています。私はデスクとして、記者に指示したり、記者から来た原稿を読んで直したりしているというわけです。
デジタルと紙媒体の違い
デジタルと新聞、何が違うんだと、どんな特徴があるんだということなのですが、事業者側から見て特徴的なのは、毎日新聞のウェブサイトに来ていただいて皆さんが記事を読むと、今現在1人読んでいるとか、10人読んでいるとか、100人読んでいるということがオンタイムでわかるということです。
もちろん誰が読んでいるのかという個人情報はわかりませんが、どの記事が今どれくらい読まれているか、あるいは1日のうちにどれくらい読まれているかというのが全部わかります。今までは紙の新聞というのは配ってしまうと、一体何人が読んでいるのかさっぱりわからなかったわけです。だから新聞記者の中で、これは読まれるぞとか、これは絶対読者に届いているだろうとか、なんとなく独りよがりで言っていたのですが、デジタルだと、どれくらい読まれたかという結果が全部わかるということです。
デジタル版のライバルはゲームや動画?
デジタル版を、ほとんどの人は今、パソコン、ラップトップでは見ていません。スマホでニュースを読んでいます。スマホでニュースを読んでいるということは、我々の競争相手は他の新聞社というよりも、むしろゲームであったり、動画であったり、SNSであったりがライバルになっているということです。スマホを見る時間を、ニュースサイトや他のいろいろなものが奪い合っているという考え方です。大変競争が激しいわけです。
それから、サブスクリプションについては、入退会が非常に容易です。紙の新聞をやめようと思ったらそれなりにストレスが必要なところはありますね。しかし、ウェブサイトですと、何回かクリックすればもうやめられますので、簡単に皆さんやめてしまって、人の出入りも激しいということであります。
これらの特徴に沿って、こういうフィールドの中でどうやったら一番記事を読んでもらえるかということ、どんな記事の書き方が最適かというのを考えながら仕事をしているわけです。
デジタル版で一番読まれたのは猫の記事!
じゃあデジタルで読まれる記事って何?というところで、非常にわかりやすく、この1週間、毎日新聞のニュースサイトで読まれた記事のランキングを貼り付けました。
これ、PVという言葉を入れていますけども、ページビュー(page view)の略でして、要するに、ウェブのページにどれだけの人が来てくれたかという数字です。
生のデータはお示しできないのでランキングだけ示しますけども、見ていただいていかがでしょうか。いわゆる新聞の一面にあるような記事は一つもないというふうに思われるのではないでしょうか。
特に1位は猫の記事ですね。しかも、これオリコンニュースという、毎日新聞が契約している外部媒体から提供を受けている記事です。つまり、我々新聞記者が、1000人近い新聞記者が一生懸命毎日、警察とか政治家とかを取材しているわけですが、実はこの1週間で一番読まれたのは猫の記事だった、ということなんです。
2位は餃子の王将で、長年学生にただで食べさせてあげてきた、人情味のある店主さんの話。3位あたりがようやく社会派の話になるのですが、4位は韓国絡み。日韓関係というのは非常に読まれるんです。5位はいわゆるGo Toトラベルで、つまりお金絡みの話。これも非常に読まれます。
ということで、いわゆるウェブサイトをポチッとクリックされやすい記事というのは、こういった傾向があるということです。新聞というより、ややワイドショーに近いノリじゃないでしょうか。
PV数は収益にはあまりつながらない
では、統合デジタル取材センターの人間はこんなことばっかりやっているのかというと、まったくそうではありません。私達の部署が重視しているのは、やはりきちんと毎月980円を毎日新聞に支払っていただいて、継続的に読んでもらえる読者を獲得することです。良い記事を書いて安定的な読者を獲得し、安定的な経営基盤を作って、さらによりよい報道をしていく。そういう好循環を何とか創り出したいと思っています。
もちろんPVにも意味はあります。PVという数字は、うちのウェブサイトにどれぐらいの人が来てくれているかの目安のデータであると私は思っています。商店街にどれくらいの人通りがあるかというようなデータです。まず来てもらわないと、我々の本気で書いた記事というのは目に留めてもらえない。さらに人通りの多い商店街であれば、広告の看板の単価も上がるわけなので、広告収入の点でも重要な指標です。しかしウェブの広告収入というのはそんなに収益的に大きなものではありません。新聞業界はかつて、無料で記事を流して広告収入で稼ごうとしていた時期があるのですが、それでは持続的な経営の安定は見込めない、と判断した結果、各社がサブスクモデルに切り替えているわけです。
新聞は読者に信頼されているか?
ところで、皆さんメディアを信頼していますでしょうか。新聞は信頼されているというふうに我々は思いたいのですが、最近は新聞を疑ってかかるという方も多いと思います。
これは毎日新聞に掲載した表で、2020年最新の数字です。これを見ますと、「新聞は信頼できる」「やや信頼できる」は69.5パーセントで、テレビ66.8に比べてやや高いと思います。それからSNS、一番下のほうのツイッターとかYouTubeみたいなのに比べると、だいぶ高めにはなっております。
ロイター調査で日本は?
しかし、国際比較というのを見ますと、これはロイターの調査なのですが、英語になっていて恐縮ですが、オレンジ色が新聞社とか新聞記者本人が思っている、要するに俺たちは信頼されていると思っている数字。それから青いほうが、読者が信頼できると思っているかの数字。
日本を見ると、なんとジャーナリスト自身は俺たち信頼されていると91パーセントの人間が思っているのに、読者のほうは17パーセントの人しか信頼できると思っていないということですね。だから、ニュースをつくる側と受け取る側の認識のギャップがものすごく大きいということです。
これはメディアの調査なので、新聞だけじゃなくて、テレビとか、雑誌とかネットメディアとか、いろいろなものも含めてなのですが、日本の特徴というのは、つくり手側は自分たちは信頼されていると思っているけれども、受け手側がメディアは信用できないと思っているということなんです。
例えばフィンランドとかは、5割以上の人がメディアは信頼できると思っている。ポルトガルなんかも50パーセントを超えています。そういう点では日本は韓国よりも低い。果たして新聞だけ見たらどうかとか、そのへんはわからないのですが、総じてメディアに対する信頼度が低いというのが日本の特徴ですね。
当局から情報をもらって特ダネを取るのはもう古い?
このような状態の中で、我々はどうやったら安定的に読者にお金を払って記事を読んでもらえるのか。裏返せば、どんな記事だったらお金を払ってでも読みたいですかということです。さっきのニューヨーク・タイムズを始めとする欧米メディアもそこは一生懸命調べていて、大体一つの方向性というのがわかっています。
一つは調査報道です。みんなが知らない事実を調査、取材をして白日の下にさらし、誰よりも早く社会に届けることです。
日本の新聞が長年やってきたのはいち早い特ダネ報道で、当局の決定とか逮捕とか、そういうのを1日とか2日、下手すると当日の朝、一足早く特ダネを打つというのが伝統的な日本の新聞のやり方でした。
そういうのは海外では、すでにあまり価値を見いだされていないのが実情です。実際さきほどのロイターの数字を見てもわかるとおり、そういうことを長年やってきた我々は、当局と癒着して、当局から情報をもらっているから、当局に忖度して何も書けないのだろうというふうに、おそらく読者、国民から疑念を持たれてしまっているのではないでしょうか。
そうやって警察とか政治家に密着して、1日、半日早く書くことをやっていると、どうしても取材相手と「一体化」してしまうのではないか。取材相手に借りをつくってしまうということになるので、彼らが困るようなことを書けないのではないか。長年の新聞の取材の仕方や書き方といった仕事のスタイルがだんだん読者からの不信を招いて、結果としてこういう「信頼できない」という数字につながっているんじゃないか、と私は思っています。
調査報道に希望を
じゃあどうやったら国民、読者から信頼されて、お金を払ってでも毎日新聞を応援しよう、毎日新聞を毎月読もうと思ってもらえるか。一つは先ほど申し上げた調査報道です。
手前味噌ですが、左側が毎日新聞が2001年に掲載した旧石器ねつ造という調査報道で、これはもうまったく当局なんかに依拠せずに、我々が我々のメンバーで全部、Fさんという方をずっと追いかけて、決定的場面を写真に撮って、それを本人に当てて証言を引き出した。歴史の教科書を書き換えたというスクープです。
これについては、それは読むでしょうと思います。これがもし当時、ウェブサイトにバーンと出て、有料会員オンリーとなったら、たぶんみなさんお金を払って読んでくれただろうと思います。
右側が、これは伝説的なスクープであるウォーターゲート事件報道です。その左側に見える新聞記事が、博物館にあるウォーターゲート事件の最初の報道。右側は執筆した記者のメモです。こういう特ダネを継続的に書くことができれば、それはきっとお金を払って読んでもらえると思います。
まずこういった調査報道、本当の意味での調査報道を行っていくということは当然あるべきだと思います。我々もそのための取材班をつくっています。特別報道部という専門部署や、暫定的な取材班を作るなどして、これはやっています。
しかし、残念ながら、こういう本当の一世一代のスクープというのはそんなに頻繁に出るものではありません。そのときだけお金を払って読むということになってしまうと、我々も安定的な収益にはつながりませんので、やっぱり日常的になんらかの面白い記事を書いていかなければいけません。
有料会員でない読者がウェブサイトにアクセスして記事を読もうとしますと、ここから先は有料ですと出てきます。どこのメディアのウェブサイトでも同じです。続きを読みたいと思ったら、そこで手続きをして会員になってから、その先を読むという流れです。
サイトの運営側は、どの記事を読んでいる途中に有料会員に入ってくれたかという情報を把握することになります。要するにこの記事が引き金となって、読者にお金を払ってもらえたというデータがとれるわけです。
PVの多い記事とお金を払って読みたい記事は違う?
そのような分析をすると、PVの多い記事とお金を払って読みたい記事とは必ずしも一致しないということが分かります。例えば、毎日新聞で直近の1週間に会員を獲得した記事のランキングをみていただくと、PVのランキングと一つも重なっていないことがわかると思います。猫の記事さえ書いておけばいいとか、アイドルの話を書いておけばいいとか、勘違いされがちなのですが、有料会員の獲得という意味で言えば、まったくそんなことはありません。数字を取るために仕事をする、ただ単に多くの人に読まれるような記事を出す、そんなのがジャーナリズムか?というふうに思われる方も多いのですが、いわゆるワイドショー的にたくさんの人に見てもらえばいいということと、ちゃんとお金を払って、毎日新聞のファンとして読んでもらうというのは、別の論理だと思っています。
一方、紙の新聞の内容は?
さっきから全部デジタルの話をしていたのですが、私たちは当然、同時進行で紙の新聞をつくっているわけです。
今日の、これは朝刊です。見ていただくとわかるとおり、一面トップはNHKの受信料の話、それから学術会議問題、都市対抗などですが、これはそれぞれの記事がそのままウェブサイトに載っています。
一般的な話ですが、このようなニュースで有料会員を獲得するのは難しいと言えると思います。もちろん既存の有料会員の方は読んでいるのですが、新しくお金を払って読もうという人は読まないということになります。なぜなら、このような記事は全部無料でいろいろな媒体に書いてあるので、ヤフーのニュース・トピックスとかを見たら載っていますし、なんなら昨日のNHKのニュースとかを見たら半日早く報じているからです。
だから不要だということではまったくないのですが、新聞に掲載される記事、特に1面に載せるような記事が、無料記事と差別化できていない記事が多いのは事実です。本来ならデジタルと同時に新聞の中身も見直していかなければいけないと私は思っていますが、そのお話はいつか別の機会に譲りたいと思います。
情報の洪水の中で新聞社の役割は?
最後に、我々が今力を入れていることをお伝えしたいと思います。新聞社なんて本当に必要なのか、どういう存在意義があるんだと言われるかもしれません。もうウェブで、なんなら無料で読める記事もあるし、ネットを通じて一人一人が発信しているんだから、そんなに新聞なんか読まなくたって情報は入手できるよと思われると思います。
今、世の中にはあまりにも膨大な情報があります。非常に古いデータなんですが、1996年と2006年という、はるか前同士の数字を比較してでも、日本に年間流通する情報量というのは、10年で530倍に増えています。2006年以降、さらにインターネットが普及しましたから、いまはこれどころじゃないくらい増えていますね。
これは視覚的にわかりやすくすると、96年の時点で、新聞紙で表すとこれくらいの量だったのが、2006年時点で、もう東京タワーのはるか上くらいの量になっていますよということです。だから、もし現在このデータがありますと、たぶんもう宇宙のレベルまでいっているのではないか。それくらいの情報の洪水に我々は毎日さらされているということです。
もちろん情報が増えるということはいいことです。というのは、昔は我々新聞社とかテレビとかしか、マスメディアと言われるものがなかったので、我々がある意味独占的に情報を流通させていたわけです。
しかし、今は皆さんSNSを使って、一人一人が発信できるようになった。あるいはインターネットを使って、直接当事者が発信する情報にアクセスできるようになった。つまり、情報の流通が民主化された。インターネットの普及によって、経済全体で生産者と消費者の間を取り持つ仲介・流通業者がどんどん衰退していくという流れの中に、新聞社、マスメディアも入っているわけです。
じゃあ独占的なポジションを失った我々は何をしていくべきかというと、一つは先ほど申し上げたように、世の中に流通していない情報を掘り起こしてきて、発信する。単なる情報の仲介ではなく、我々自身がニュースを生み出していくことに力を入れる。つまり調査報道です。
もう一つは、この膨大に増えた情報を、情報のプロフェッショナルとして、我々が重要度をある程度ランク付けし、セグメント化して届けていく。さらには、膨大に世の中に流通している情報をスクリーニングして流す。つまりゲートキーパーとしてのメディアの役割。これもあるのではないかということです。
新聞社の持つコアバリューとは?
その話と関連しますが、我々が持っているコアバリューってなんなのだろうと考えてみます。毎日、紙の新聞を家庭に届けることでしょうか。それもあるかもしれません。でも、それはだんだんこの世の中で必要でなくなっていく、ウェブでいいじゃないかとなってくると、もっとプリミティブな原初的な我々の価値ってなんなんだろうというと、やはり取材することに行きつきます。
取材して情報を取ってくる、あるいは世の中に出回る情報が正しいかどうかを確認し、正確な情報を流すということにあると思います。
我々は支局の1年生時代から、取材、裏取り、原稿執筆というのを毎日のようにやってきている。そういう意味で、訓練を積んでいます。ですから、情報のエキスパートとして、正確で信頼できる情報を提供していくというのが我々のコアバリューではないかと思うのです。
デジタルコンテンツにおけるファクトチェックを!
さっきのデジタルの話に戻りますと、それをデジタルのコンテンツに落とし込んでいったとき、新しく我々がやっていくべき仕事だと思っているのが、このファクトチェックです。ファクトチェックというのは、要するに、世の中で膨大に流通している情報の真偽を我々が検証して、それに対してレーティングしていくという試みです。
毎日新聞ではいま、世の中に出回っている情報を検証して、この表にあるようなレーティングをして、ウェブに流すということをやっています。ファクトチェックというのは我々が始めたことではなくて、世界中でもう始まっていまして、右上にあるピノキオのイラストは、これはワシントン・ポストがやっているのですが、情報の真偽を確かめて、うそであるという場合はこのピノキオマークの数でレーティングをするということをやっています。
国際団体もありますし、日本ではファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)というNPOが、ファクトチェックの判定の基準をつくっています。「正確」から「虚偽」まで7段階ありまして、我々はこのガイドラインに沿って情報を検証して、チェックして、それを流すということを始めました。
フェイクニュースをいち早く検証する
先ほども言いましたが、膨大な量の情報が流れている中で、例えば米大統領選では、トランプ大統領が火に油を注ぐ形で、トランプ支持者と民主党支持者がお互いを非常に中傷し合うということがおこなわれているわけです。このフェイクニュース、虚偽情報というのが、場合によっては選挙の結果すら左右しかねないということが起こっています。そうすると、我々の民主主義の危機でもあるということです。
虚偽情報に対しては一刻も早くそれを検証して、これはうそである、あるいは、これは部分的に本当だけどミスリーディングであるとかいうことを流す必要があります。
それを我々新聞社が、我々の持っている取材力とか情報検証能力を使ってやっていこうじゃないかというのが、このファクトチェックです。
新聞社だけではなくて、NGOとか大学でもやっていますが、新聞社も本格的にやろうというのが、今日本で毎日新聞が始めていることです。
世界のメディアvs フェイクニュース
FIJ(ファクトチェック・イニシャティブ)が、ファクトチェックに取り組んでいるメディアを世界地図に落とし込んだ図をお見せします。今日本では2と書いてありますけども、毎日新聞を含めた2団体がやっておりまして、今ちょっとずつ増えています。これは少し前の古い数字になります。
見ていただくとわかるとおり、アメリカやヨーロッパが中心ですが、アジアでもいろいろなメディアがファクトチェックを始めています。膨大なフェイクニュース、あるいはデマ、虚偽情報を、世界中のメディアがウォッチして、それを正すというような戦いが今、おこなわれているということです。
はっきり言って地味な取組みなのですが、実は我々が思った以上に、このファクトチェックというのは読まれています。
学術会議OB年金250万円は、フェイクニュースだった!
ファクトチェックの例を出しますと、日本学術会議会員OBは学士院に行くことができて、学士院に行ったら死ぬまで年金250万円をもらえるというふうに、フジテレビの上席解説委員がテレビで発言したんです。これはもう完全に間違っているのですが、これをファクトチェックして、「誤り」と判定して記事化しました。
これは非常に読まれていまして、それを契機に有料会員にもたくさん入っていただきました。ということで、従来の新聞社がやってきた特ダネを狙うというのとはまったく違うのですが、ものすごく読まれて、実際有料会員という形でお金も払っていただいているということです。
我々新聞社に期待されていることというのは、だんだんこういうことになってきているのかなと思います。
みんながあと1日待てばわかるようなニュースとか、当局にぶら下がって情報をもらって流す情報ではなくて、自分たちで検証して、世の中に流れているデマとかを検証していくということが、非常に求められているのではないかと思います。
まとめさせていただきますと、従来型の新聞のビジネスモデルは限界にきている。紙からデジタルへというのは、もう必然的な流れです。
じゃあ我々は何をしていくべきかというと、本来の社会的使命に立ち返って、世の中から求められていることをやって、その対価としてお金を稼いでいくという形で、読者と一緒につくっていく、読者に支えられて成り立っていくメディアに変わっていかなきゃいけないと思っています。
その中の一つの新しい取組みが、ファクトチェックになります。私は現在46歳で、あと10年、15年くらいはジャーナリズムに関わるつもりでいるのですが、中には新聞社はもう終わったと思う方がいるかもしれませんし、実際若い記者たちの中には、辞めて別の職種に移ったり、いわゆるネットメディアに転職していったりする者もいます。
しかし私は、毎日新聞が150年間培ってきた伝統とか人脈とか底力というものを使って新しいことをやっていけば、もっと大きく変えられる。あるいは社会というか、このメディア業界を変えられるんじゃないかと思っていますし、変えていきたいと思っています。
今日このような場をいただいてお話しできたのは、すごくうれしく思っていますし、ぜひ皆さんに、こういう思いを共有していただければと思っています。
どうもありがとうございました。
文責・認定NPO法人・21世紀構想研究会事務局
投稿情報: 19:30 | 個別ページ
21世紀構想研究会の学術アドバイザーの黒木登志夫先生が、コロナウイルス感染症の世界的拡大に関して、様々な観点から学術的・実証的な解説を書いてくれました。大変分かりやすくかつ海外情報も多数紹介した内容です。楽しみながら読ませるコロナ関連のコラムとしては傑出した内容になっています。
是非、ダウンロードしてお読みください。
2021.4.14コロナウイルスarXiv(26)をダウンロード
2021.3.12コロナウイルスarXiv(25)をダウンロード
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2020.03.30(2) コロナ感染Kinetics分析(2)revをダウンロード
2020.03.28(1) コロナウイルス感染Kinetics分析(1)ダウンロード
黒木登志夫先生
1997年の21世紀構想研究会創設期からのメンバーで、現在はアドバイザー
東北大学医学部卒。東北大抗酸菌病研究所助教授、東京大学医科学研究所教授。米国ウイスコンシン大学に留学、WHO国際がん研究機関に勤務。東京大学名誉教授。昭和大学腫瘍分子生物学研究所所長。岐阜大学長。日本学術振興会学術システム研究センター副所長、WPIプログラムディレクター、WPIアカデミーディレクターなどを歴任。
専門は、がんの細胞生物学。
1970 年 第4回高松宮妃癌研究基金学術賞受賞。
1998年 日本癌学会吉田富三賞受賞
2017 年 山上の光賞受賞
2000 年 日本癌学会会長を務めた。
2021年劈頭の21世紀構想研究会は、労働経済学・行動経済学の第一人者である大阪大学大学院経済学研究科 大竹文雄教授にお願いしました。
今年もZOOM開催になります。(URLは追ってご案内いたします)
※zoom講演会は一般公開いたします。どなたでも聴講できます。一番下の事務局メールアドレスへお申し込みください。聴講無料
日 時 2021年1月30日(土)午後4時―同6時 ZOOM開催
演 題 「出生体重と相対年齢が子どもの発達に与える影響」
講 師 大竹文雄・大阪大学大学院経済学研究科教授
講演要旨
出生体重と相対年齢が子どもの発達に及ぼす影響を比較・研究している。
日本のある自治体の行政データを分析したところ、出生体重の低さは子どもの発達にマイナスの影響を与え、4月生まれの子どもと3月生まれの子どもでは子どもの発達に差があることがわかった。
しかし、低出生体重と4月生まれと3月生まれの子どもの発達段階への影響は異なり、4月生まれと3月生まれの子どもの発達差は学年が進むにつれて縮まる一方、低出生体重の影響は学年が進んでも緩和されないことがわかった。
また、出生時体重が4000gを超えていた場合に、後年に肥満を通じて子どもの発達に悪影響を及ぼすことも確認されている。出生時の体重を標準に近づける介入が、効果的であることが示唆される。
大竹文雄教授略歴
大阪大学大学院経済学研究科教授。
1961年京都府生まれ。大阪大学博士(経済学)
大阪大学助手、大阪府立大学講師、大阪大学社会経済研究所教授等を経て、2018年から現職。
専門は労働経済学・行動経済学。格差問題の実態と原因を実証した著書『日本の不平等―格差社会の幻想と未来』で日本学士院賞、サントリー学芸賞、日経・経済図書文化賞などを受賞。
著書に『競争と公平感』『競争社会の歩き方』『経済学は役に立ちますか?』『医療現場の行動経済学』『行動経済学の使い方』など多数。
聴講申し込み受付:21世紀構想研究会事務局メール:kosoken-kosoken@ml.galileo.co.jp
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新聞は生き残れるのか。ネットで氾濫する情報はどのようにとらえればいいのか。混沌とする時代を迎えています。その現場からの生々しい報告と近未来を示唆した講演と討論の場にしたいと思います。
ZOOM講演になりますが、是非、討論に参加して下さい。
開催日 2020年10月17日(土)午後4時から同6時まで
ZOOM開催 URLは追ってご案内します。
※zoom講演会は一般公開いたします。どなたでも聴講できます。一番下の事務局メールアドレスへお申し込みください。聴講無料
講師
坂井隆之(毎日新聞統合デジタル取材センター副部長)
講演タイトル
「46歳記者がデジタルジャーナリズムの世界で見たもの 新聞の未来はどこにあるのか」
講演要旨
新聞の部数が全国で激減している。過去20年間で1590万部が減り、足元で減少ペースはさらに加速している。20年後には存在しているかどうかも怪しい、いまや「絶滅危惧種」だ。生き残りをかけて各社が取り組んでいるのが、ウェブ上で記事を読んでもらうデジタル化(DX)であるが、収益に結びつけるまでには至っていない。
経済報道の分野で「紙」文化にどっぷり浸かってきた筆者は、この4月からデジタルジャーナリズムの最前線に身を置き、何とか老舗新聞社の存在感を発揮させようと悪戦苦闘している。実験的部署である統合デジタル取材センターの取り組みは徐々に成果を上げつつあるが、これは「時間との闘い」であり、厳しい生存競争の中で安穏としていられる状況にはない。
今回の講演では、新聞社が置かれている現状と、デジタルジャーナリズムの最新の情勢について、できるだけ具体的事例を交えてお話をしたい。その上で、ジャーナリズムと市民が相互に支え合う成熟した情報化社会を実現するにはどうすればよいか、聴者の皆さんと一緒に考えていきたいと思っている。
講師略暦
坂井隆之(さかい・たかゆき)
1973年生まれ。広島大学大学院修了。1998年毎日新聞入社。千葉支局を経て、2003年から経済部で日銀、金融庁、財務省などを担当。12年~16年、ロンドン特派員として、欧州、中東、ロシア、アフリカのニュースをカバーした。20年4月から統合デジタル取材センター副部長。共著に「AIが変えるお金の未来」(文春新書)など。京都市出身。
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どうする日本の研究現場の課題
-問題提起ではなく解決する実行力が問われている-
第159回21世紀構想研究会は、本会アドバイザーの黒川清先生のご講演をお送りします。
9月26日(土)午後4時~同5時30分
zoomオンライン講演となります。zoomURLは事務局からお知らせします。
※zoom講演会は一般公開いたします。どなたでも聴講できます。一番下の事務局メールアドレスへお申し込みください。聴講無料
講演タイトル
「どうする研究現場の課題-問題提起でなく解決するための実行力が問われている」(仮題)
黒川清先生は、学術界では知らない人がいない存在感を持っている先生です。国際的な視野から見た日本の研究現場の問題点を発信して改革への道標を掲げています。
いま政府のコロナ対策を検証する委員会の委員長とし、5つの委員会とそれらを統括する委員会が検証する委員長で、山中伸弥、安西祐一郎、永井良三先生の4人の委員と共に展開するようです。
参考まで黒川清先生情報
ウィキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BB%92%E5%B7%9D%E6%B8%85
ブログ
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交遊コーナー「日常異変 コロナの私」です。
21世紀構想研究会会員の交遊コーナーです。
「日常異変 コロナの私」の第16回をお届けします。会員の小出重幸さんが読売新聞社会部のサツ回り記者時代の思い出話をコロナの異変に合わせて書いてくれました。
小出さんは地球環境、医療、医学、原子力、基礎科学など幅広くカバーした科学記者で科学部長、編集委員後に退社。その後、インペリアル・カレッジ・ロンドン客員研究員(科学コミュニケーション)、日本科学技術ジャーナリスト会議 会長、早稲田大学大学院客員教授、お茶の水女子大非常勤講師などを務められ、今なお現役の科学ジャーナリストとして活躍しています。クライミング、山スキー、チェンバロ、カヌー、読書など多彩な趣味人としても名を馳せています。
今回は手塚治虫さんと「トキワ荘」のエピソードを楽しく再現してくれました。
下記からダウンロードしてお読みください。
ダウンロードしてお読みください
第158回21世紀構想研究会のネット開催が8月29日(土)午後4時からZOOMで行われました。倉澤治雄先生の当日の講演会をYouTubeに公開しました。ぜひこちらからご覧ください。
投稿情報: 21:24 | 個別ページ
第158回研究会は、8月最後の土曜日にZOOMで開催します。
テーマは、「米中対立の深淵を読み解く」で、主として科学技術の視点から会員の倉澤治雄さんが講演し、その後の意見交換とします。
※zoom講演会は一般公開いたします。どなたでも聴講できます。一番下の事務局メールアドレスへお申し込みください。聴講無料
8月29日(土) 午後4~6時 ZOOM開催になります。
講演テーマ 「米中対立の深淵を読み解く」
講 師 倉澤治雄(科学ジャーナリスト)
講演要旨
かつて「世界の工場」と言われた中国が世界第2位の経済大国になったのは2010年のことです。それから10年、今や経済では日本のGDPの3倍の規模となり、2049年までに米国と並ぶ「イノベーション強国」となることを目標としています。
米中対立は、貿易戦争に始まり、香港問題、チベットやウイグルなどの少数民族問題、産業政策、5Gを中心とする通信インフラ、それに宇宙開発などあらゆる分野でエスカレートしています。中国の科学技術に関する調査研究を行う中で、科学技術の視点から米中対立の深淵を読み解いた結果、、中国は科学技術の分野でも、とてつもないスピードで進化していることが分かりました。こうした検証結果と直近のコロナ問題、5Gをめぐる米中覇権争いなどを解説しながら、日本のとるべき進路について皆様と一緒に考えたいと思います。参考書籍です。
21世紀構想研究会事務局メール:kosoken-kosoken@ml.galileo.co.jp
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